【日野市】雨の夜空に咲いた“とよだの花火”――その15分にかける花火師たちの物語
2025年5月25日(土)、浅川沿いの「豊田一号公園予定地」で開催された《第4回 防衛市民の集い》。
当日はあいにくの曇り時々雨。それでも多くの近隣住民が集い、にぎやかな雰囲気の中でイベントが行われました。
イベントの最後を飾ったのは、15分間のサプライズ花火「とよだの花火」。
雨脚が強まる夜空に、力強く咲いた光の花。この花火の裏側にある、花火師たちの思いと準備の過程を取材しました。
イベントが始まったのは12時。会場にはキッチンカーや販売ブース、自衛隊や消防団による展示体験、ステージなどが並び、子どもたちが芝生を駆け回っていました。
その傍ら、午後3時。
1台の軽トラが芝生中央へ入ってきました。荷台にはケースや様々な道具。「とよだの花火」の花火師たちが現地入りし、黙々と準備を始めます。
この日集まったのは、10数名いるメンバーのうち8名。雨が降ったり止んだりする中、「大雨でも上げますよ」と、笑顔で答えてくれました。
「とよだの花火」は、もともと一人の花火好きなお父さんが、自分の子どもたちと楽しむために始めたものでした。
やがて「もっと大きな花火を見せたい」という想いが募り、花火の打ち上げ資格《煙火打揚従事者手帳》を取得。
想いに共感する仲間が少しずつ集まり、今では10数名のチームに成長しました。
打ち上げ花火を始めたのは、東日本大震災の2〜3年前だったそうです。全員がボランティアで、地域の笑顔のために続けてきました。
準備でまず行うのは、安全確保のためのロープ張り。20,000平米超の広い原っぱに杭を打ち、テープを張っていきます。
ロープをくぐって遊ぶ子どもたちも、微笑ましい風景の一部です。
花火玉そのものは花火卸売業者から購入していますが、着火はすべて手動。かつて電気点火の花火にも挑戦したそうですが、「臨場感がイマイチだった」と、今はバーナーで一本一本に着火する“アナログスタイル”を貫いています。
「自分で火をつけるってのは、度胸がいるよ」と会長の有竹さん。
若手メンバーにも話を聞くと、「始めはとにかく怖かったし、音がすごく大きい。今は耳栓をしてるから少し慣れたかな。とは言え、打ち上げ花火は練習できないんで、いきなり本番。緊張感は毎回すごいですよ」と、正直な言葉が返ってきました。
「真下からしか花火を見たことがない」と冗談めかして話す皆さん。
イベントを“楽しむ側”ではなく“支える側”として少人数で作業に打ち込むその姿に、頭が下がる思いがしました。
草が伸びてしまえば、子どもも遊べず、花火も上げられない。打ち上げ場所となるこの公園の原っぱの草刈りは、会長の有竹さんが2週間に一度、自前の草刈り機で朝5時から行っているとのこと。(もとはススキ野原だったそう)
ちょっとぶっきらぼうに「誰かがやんなきゃ。大変だけど仕方ない」そんな言葉の奥には、地域と子どもたちへの愛情と強い責任感を感じました。
花火を打ち上げるための筒や装置の多くは手作り。溶接や素材選びなど、試行錯誤の連続だったといいます。
揃いの法被の背には「豊花」の力強い文字。その法被も、実は綿素材で火の粉に強い仕様なのだとか。花火師の安全への配慮が詰まっています。
この日は不安定な天気。開催の有無について、公式LINEへの問い合わせが絶えません。
対応していたのは、チーム唯一の女性花火師の松田さん。「今日はありますか?」という質問に個別で返信を重ねていました。
「本番に入ったらスマホ見てる暇はないけどね」そう言いながらも、“見えないところ”でも花火を支える姿が印象的でした。
花火玉にはそれぞれ名前が書かれてあります。どんな花火があがるのか、この名前をみるとわかるのだそう。こちらは、直径約5cmの1.5号玉で、打ち上げ花火としてはかなり小さなタイプなのだそう。
この1.5号玉の花火玉を筒の中に一つずつセットしていきます。1列に5つ、火をつけて花火が上がったら、新しい玉に入れ替えてまた打ち上げるのだそう。
「筒を固定する紐が火で焦げてしまうから、それを防止するため導火線を固定する器具を作ったんです」と、研鑽の積み重ねが感じられます。
導火線を見せてもらうと、細い針金が束になったようなものでした。
先程の一つずつセットするタイプとは異なり、こちらは10×10の100の花火が連射で上がるタイプ。花火の種類やサイズは様々で開催毎に必要な量を買いにいくのだそう。
着火のエネルギーで飛び出してしまうことがあるので、ブロックと杭でしっかり固定していきます。この日の玉数を聞くと、「500発かな。15分くらいしか持たないよ」。と事前の準備に比べてあっけないほどの短い時間だということがわかります。
雨で花火玉が濡れないよう、花火をセットしたあとはカバーをかけ、準備は一段落。「今日は雨が降ってるから芝生に水をまかなくていい」と、本来なら火の粉が燃え広がらないよう、消防車による放水も行われます。
めったにないことですが、打ち上げ花火の事故は日本各地で起こっています。
自らの手で着火するというスタイルなので、電気点火よりも危険が伴う「とよだの花火」。念入りに確認をします。
一度花火玉を設置したら、そこには火薬があるため、誰かが必ず見守りにつき、離れることはできません。
準備の合間に、「腹が減っては戦はできぬ」と、近隣のお蕎麦屋さん「玉川」さんが届けてくれた出前のカツ丼やおそばを交代でいただく場面も。
取材で訪れた私も一緒にごちそうになり、恐縮しつつも美味しくいただきました。
例年夏に行われている「とよだの花火」。今年(2025年)も上げたいと考えているとのこと。けれど、その道のりは簡単ではありません。音問題等で、すべての近隣住民が賛同しているわけではないことや、体力的な問題もあり、心が折れそうになることもあるといいます。
「正直、膝も腰も痛い。花火は準備だけじゃなくて、後片付けもある。今日は夜にかけて雨が強くなるから、後片付けのころは土砂降りだよ。
でも“ありがとう”って言われたら、全部報われる。アンコールの声が聞こえたとき、“やってよかった”って思えるね」
「わぁ!」という歓声や、夜空を見上げる人々の笑顔、大きな拍手。その一瞬で、全ての苦労が報われるのだと話してくれました。
打ち上げの時間が近づき、立入禁止エリアの外へ。
18時の合図の花火が空に舞い、徐々に会場も夜のムードへと変わっていきました。
雨脚はどんどん強まりましたが、人は減るどころか、続々と集まってきます。「第4回 防衛市民の集い」も終盤、大抽選会を目指し、一度家に帰った方もまた会場に集まってきたようです。
傘がなければ立っていられないほどの雨の中、小中高生も含む多くの人が、花火の始まりをじっと待っていました。
原っぱの中央では、雨の中、傘も刺さずに花火師たちが最終チェックをしているようです。
19時半になり、いよいよ打ち上げ開始。雨の夜空に次々と打ち上がる花火。大きな音と光に、会場は歓声に包まれます。
傘をさしながら、笑顔で夜空を見上げる人々。雨が振っていても一目花火を見たいとこれだけの人が集まることに、花火の魅力を感じました
直接点火のスタイルは、花火師の度胸と集中力が問われる本気の仕事。至近距離でバーナーの火を灯しながら、花火を次々と打ち上げていくその姿には、感動さえ覚えました。
この日、15時から準備を始めた花火はわずか15分で終了。感謝の拍手の中に、「え?もう終わり?」という声が聞こえたとき、少し胸が痛くなりました。
この15分のために、定期的に早朝から芝を刈り、雨の中で準備を行い、火薬を扱い、打ち上げ、そしてこのあとも片付けが待っている。花火師たちは、花火を見上げることもなく、びしょ濡れになりながらこの日を過ごしたのです。そして翌朝も早くから再び現地に足を運び、ゴミ拾いなどを行なうのです。
実際に現場で取材をし、「花火は、ただの娯楽じゃない。それ以上の魅力がある」ことを感じました。
この一瞬の感動の裏側に、たくさんの思いや努力があることを、少しでも多くの人に伝えたいと思います。そしてまた、日野の夜空に花が咲く日を楽しみに待ちたいと思います。
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